
●この記事のポイント
・センチュリー21で12年修行した川野氏が独立創業。板橋区・川越市に特化した地域密着戦略で大手との差別化を実現。
・相続、任意売却、ゴミ屋敷など「困難案件」への対応力を武器に、単なる仲介を超えた問題解決型サービスを展開。
・独自の「3ステップ戦略」で、中古住宅を高値・早期売却に導く。
大手不動産会社がしのぎを削る首都圏の不動産仲介市場。数多くの業者が存在する中で、創業わずか2年の株式会社カラーズハウスが着実に実績を積み重ねている。代表の川野元基 氏は、センチュリー21の加盟店で12年間の実務経験を積みながら、NPO法人不動産売却 SOS相談センターの相談員として多くの方のお悩みを解決し、2023年11月に独立創業。板橋区と川越市に特化した地域密着戦略と、顧客の複雑な事情に寄り添う問題解決力で、レッドオーシャンの市場に新風を吹き込んでいる。
●目次
- 独立までの 12 年間〜一気通貫で学んだ不動産の全工程
- 「地域特化」という戦略的選択
- 新築マンションの手法を中古住宅に応用する
- 相続・ゴミ屋敷・私道問題〜困難案件への対応力
- 「高額査定」をしない勇気
- 人口減少時代の成長戦略
独立までの 12 年間〜一気通貫で学んだ不動産の全工程

川野氏が不動産業界に飛び込んだのは、明確な目的があってのことだった。
「もともと独立しようと思って、センチュリー21 の加盟店に入社しました。私の父も同業者で 東京のュリー21 加盟店の創業者と仲が良かったこともあり、修行の場として紹介し てもらったんです」
多くの不動産会社が効率化のために分業制を採用する中、川野氏の修行した会社は一気通貫方式を採っていた。集客から営業活動、契約書作成、引き渡しまでの全工程を一人で担当できる環境。さらに仲介業だけでなく、物件の仕入れや事業計画まで学べる貴重な機会だった。
「仕入れの業務まで一通り学べる環境は本当に恵まれていました。独立するなら全部でき ないといけないと思っていました。本当はあと1、2年は早く独立したかったんです。でも人員の問題もあり、なかなか辞められなくて。満を持して独立したわけです」
「地域特化」という戦略的選択
カラーズハウスの最大の特徴は、板橋区と川越市という2つのエリアに特化していることだ。大手のような広域展開ではなく、あえてエリアを絞る戦略には明確な狙いがある。
「板橋区は私が勤めていたセンチュリー21の加盟店があった場所で、もともと強いエリアです。川越市は私の地元で、スタッフもほとんどが川越やその周辺の出身者。地域について熟知しているんです」
現在の人員規模では、特化できるエリアに絞ったほうが効率的であり、何よりも顧客に質の高い提案ができる。川野氏が強調するのは「地域を熟知している」ことの価値だ。
「売却を考えているお客様にとって、治安や道路交通事情、周辺のお店の情報など、普通の不動産営業マンが知り得ない情報を提供できることが大きな強みです。特に川越は繁華街もあれば田舎も多く、治安も昔からいい場所と悪い場所が明確に分かれています。こうした情報はネットでは得られません」
とりわけ価格変動や地域の変化を細かく知ることができるのは、同社にしかない強みだ。板橋区はリーマンショック直後と比べて約3割、特に大山エリアでは1.5倍にまで不動産価格が上昇している。一方、川越市内でも駅によって人気が二極化しており、川越駅周辺の新築マンションは1億円を超える物件も登場している一方、5年以上新築マンションが建っていないエリアも存在する。
「市場の動きを細かく把握できるのも、エリアを絞っているからこそです」
新築マンションの手法を中古住宅に応用する

カラーズハウスのもう一つの強みが、独自の「販売戦略」だ。川野氏は新築マンションの販売手法を中古住宅に応用することで、早期・高値売却を実現している。
「不動産仲介業の仕事は、早く高く売ること。しかし高く売るのは簡単ではありません。そこで私が注目したのが、未完成でも売れる新築マンションの販売手法です」
新築マンションが高値で売れる理由は、3つのステップにある。まず「見に来てもらう」ために魅力的な広告を打つ。次に「安心感を感じてもらう」ためにセキュリティや耐震性、遮音性などをしっかり説明する。最後に「ワクワクして購入したくなる」ように、家具や小物を配置したモデルルームで未来の生活をイメージさせる。
「この 3 ステップを中古住宅に取り入れるんです。見に来てもらうためにプロのカメラマ ンが撮影した写真と、人口動態に基づいた訴求力のあるキャッチコピーを作成します」
キャッチコピーの作成には、市区町村が公開している人口統計データを活用する。高齢者が多い地域に「小中学校が近くて通学も安心」と打ち出しても響かない。逆に若い世帯が多い地域では「バス停が近い」よりも「駅徒歩圏内」のほうが効果的だ。
「安心感を感じてもらうために、無料の簡易インスペクション(住宅診断)を実施し、瑕疵保険にも加入します。そして最後のワクワク感を演出するのがホームステージング。家具や小物を配置して、購入後の生活を具体的にイメージしてもらうんです」
これらのサービスはすべてカラーズハウスの費用負担で提供している。仲介業でありながら、販売原価をかけて物件の価値を最大化する。この戦略が、他社との明確な差別化につながっている。
「360度カメラでバーチャル内覧ができるサービスも導入しています。毎年開催される不 動産・建築の展示会には必ず参加して、新しいサービスにアンテナを張っていますね」
相続・ゴミ屋敷・私道問題〜困難案件への対応力
カラーズハウスが扱う案件の中には、一般的な売却とは異なる「困難案件」も多い。相続、任意売却、リースバック、空き家問題など、複雑な事情を抱えた売主に対する対応力が、同社の大きな強みとなっている。
「相続案件は今後ますます増えていきます。でも多くのお客様は、相続登記が必要だということすら知りません。まずは司法書士と連携して、遺産分割協議から相続登記まで全面的にサポートします」
相続による空き家には、特別な税制優遇措置がある。しかし、この優遇が使えるのは相続発生から3年以内という期限付きだ。適切なタイミングで売却しないと、手元に残る金額が数百万円単位で変わってくる。
「49日より前に相談してくる人はほとんどいません。でも、その後のスケジュール管理を きちんとしないと、優遇措置を逃してしまう。確定申告のフォローまで含めてサポートしています」
印象に残っている難易度の高い案件を尋ねると、川野氏は相続人同士の関係が険悪な上、物件が“ゴミ屋敷”だったケースを挙げた。
「そのお客様の場合、親族間で話もしたくないという状況でした。司法書士は遺産分割協議書の作成はできても、相続人間の仲裁はしません。そこで私が間に入って意見を取りまとめ、司法書士につないで相続登記を完了させました。物件はひどいゴミ屋敷でしたが、全部綺麗に整理して、不動産会社の買取ではなく一般の方に相場価格で売却できました」
もう一つ厄介なのが私道問題だ。通行権や掘削承諾(水道・ガス管を引くために道路を掘る許可)がないと、一般の買主は見つかりにくく、買取業者も相場の半額程度でしか買わない。
「私道の所有者が38人いた案件がありました。全員から通行・掘削承諾を取るのは本当に 時間がかかりましたが、それをやらないと適正価格では売れません。こうした地道な作業こそが、仲介会社の腕の見せ所だと思っています」
「高額査定」をしない勇気
不動産の査定を経験したことのある読者ならご存じだろうが、一括査定サイトでは、複数の業者から査定額が提示される。多くの売主は高い査定額を提示した業者に魅力を感じるが、川野氏はあえて「むやみに高額な査定はしない」と公言している。
「車やバイクの買取査定なら、一番高いところに売れば正解です。でも不動産の査定は、各社が考える『想定売却金額』であって、その価格で100%売れるわけではありません。高い査定を出さないと仲介契約が取れないからと、実現不可能な金額を提示する業者も多いんです」
川野氏が売主に伝えるのは、「査定額の高さ=正義ではない」ということだ。「一括査定は、ご自分の物件がいくらで売れそうか、その範囲を把握するために使ってください。その上で、一番しっかりした販売戦略とサポート体制を持っている会社に任せるのが、売却成功の秘訣です」
誠実さを前面に出すこの姿勢が、かえって顧客の信頼を獲得している。そんな知識を川野氏は1冊にまとめAmazonで電子書籍『売却前の勝負! 不動産売却のための完全ガイド』として出版、不動産売却の注意点を広く伝える活動も行っている。
人口減少時代の成長戦略
今後の不動産業界の動向を考えた時に気になるのは人口減少だ。今後は買主も減少してしまうのではないかとも考えるが、川野氏の見通しは暗くない。
「東京に関して言えば、人口は減っていません。川越市も人口減少している地域はありますが、海外からの移住者がどんどん増えています。関東1都3県においては、日本人が減っ ても外国人が住むようになるので、その方々への提案力が求められていくと思います」
実際、川越市は東京ほど不動産価格が高くないため、投資用不動産としての需要が高まっている。特に戸建ての投資が盛んで、サラリーマン投資家や手元資金で購入する層、さらにはグループホーム運営を目的とした大きめの戸建てを購入するケースも増えている。
「外国人の方は住宅ローンを組むのが難しいことが多いので、金融機関の動きを常にチェ ックして、外国人向けの住宅ローンを提案できる体制を整えています」
今後 2〜3 年は、エリアを拡大せず板橋区と川越市に特化する方針だ。2025 年1月には新たな人員も加わる予定で、さらに地域に根を張った事業展開を進めていく。
「集客チャネルを増やしながら、この地域での売却案件をさらに増やしていきたいと考え ています」
これから不動産売却を考える方、起業を考える方へ
取材の最後に、川野氏から読者へのメッセージをもらった。
「不動産売却は人生で1回あるかないかという大きな決断です。ぜひ1社だけで決めず、2社、3社ときちんと話を聞いた上で、しっかりした販売戦略と根拠のある査定金額を示せる会社を選んでほしいと思います」
また、不動産業界での起業を考える人に対しては、こう語る。
「若い方で起業を考えている人は多いですが、AI やマーケティングを取り入れて成功して いる事例も増えています。不動産業界はマーケティングに弱い業界なので、そこに強みを持つ人にとっては大きなチャンスがある。社会貢献度も高い業界なので、ぜひチャレンジして ほしいですね」
センチュリー21での12年間の修行、NPO法人不動産売却SOS相談センターの相談員としての経験、域特化という戦略的選択、新築マンションの手法を応用した独自の販売戦略、そして困難案件への対応力。川野氏が築き上げたカラーズハウスの強みは、一朝一夕では 真似できない。レッドオーシャンの不動産仲介市場で、地域に根ざした誠実なサービスが 着実に支持を集めている。
株式会社カラーズハウス
代表取締役 川野 元基
所在地 東京都板橋区幸町15-15アクロス大山B1
免許番号 東京都知事(1)109463 号
(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)










