不動産会社、お客への初期対応を丸投げ…「楽トス」導入企業が急増の理由…アポ取得率が3倍に、「追客」も代行の画像1
「楽トス」

●この記事のポイント
・不動産業界では問い合わせからの初動対応が契約可否を左右するが、人手不足や休日対応の遅れが課題となっている。株式会社ROUND TOSSの「楽トス」は、不動産会社に代わり問い合わせから約80秒以内で折り返し電話を行い、購入・売却希望者の希望条件や背景を丁寧にヒアリングし共有するサービス。
・AIを活用し、メール配信や検討度合い分析による効果的な「追客」も実施、アポイント取得率を大幅向上させる事例もある。現在約100社が導入し、大手顧客も抱える。将来的には蓄積データを活用したAIオペレーター化も視野に入れており、人手依存の強い不動産業界におけるDX推進の切り札となる可能性がある。

 物件を買いたい・売りたい客から不動産会社にコンタクトがあった場合、初動の対応が契約の可否を決めるといわれる。不動産会社からのレスポンスが遅ければ、客は他社に流れてしまうためだ。だが、人手の少ない中小業者が迅速な対応を取るのは難しく、大手でも対応が遅くなってしまうこともある。そんな貴重ともいえる初期対応を“丸投げ”できるサービスが「楽トス」だ。ネットからの問い合わせに対し、わずか80秒以内で折り返しの電話をかけ、客へのヒアリングを行うサービスである。売買を検討している客に対し、後日「追客」も行う。楽トスは不動産会社のニーズにどう合致し、どの程度の効果があるのか。株式会社ROUND TOSSの代表取締役CEO・林大輔氏に取材した。

目次

コンタクトからわずか80秒で電話をかける

 現代では、物件の売買を検討している客はネットでコンタクトを取るのが一般的だ。不動産会社はコンタクトを受けたあと、客に電話をかけ、ヒアリングを進めていく。だが初動が遅いと客は他社に流れたり、売買意欲が低下したりしてしまう。それを防ぐため、不動産会社に代わって「初期対応」を行うのが「楽トス」である。

「楽トスはコンタクトがあった際、不動産会社に代わって70~80秒でお客さまに電話をかけるサービスです。購入目的者に対しては、希望のエリアや予算、新築か中古かといった概要を聞きます。『子どもが大きくなった』『転勤に伴って』といった背景も重要な情報なので、購入検討者の動機までヒアリングします。売却検討者に対しても同様、物件の概要や希望の売却額、動機などを聞いていきます」(林氏)

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 特に売却希望者は、多数の企業にコンタクトを取れる一括査定サイトを使う場合があり、ライバルが多いため初動のスピードが重要になるという。ヒアリング内容は不動産会社に共有される。

「コールセンターは自社で内製化しており、コンシェルジュ並みの対応ができるよう教育しています。売却希望者の場合は『ローンが支払えなくなった』などのマイナス因子もあるため、丁寧に対応しなければなりません」(同)

背景に人手不足対応

 不動産会社は大手から零細までさまざまだ。個人経営の場合、客との面談中にコンタクトがあっても気が付かず、すぐに対応することはできない。大手でも休日のコンタクトには対応が遅れてしまう場合がある。リリースから1年が経ったが、現在では約100社が楽トスを利用しており、上場企業の顧客もいるという。

「不動産業界は人手不足という課題を抱えているうえに、離職率が高い業界です。そして社員は営業から契約まで一気通貫で行うのが一般的です。経営陣から見た場合、新入社員には電話対応から契約締結まで教えなければなりません。しかし、共通した教育機関がなく、大学の不動産学部も国内では7校しかないのが現状です。せっかく社員を育てても離職すると無駄になります。反響に対する初期対応や見込み客への追客対応だけでも外部に任せられれば全体の業務は楽になる。ニーズがあるのではと考え、楽トスの開発に至りました」(同)

 楽トスを端的に表現すれば「インサイドセールスのアウトソーシング」であると林氏は言う。インサイドセールスとは、電話やメールなど、会社の室内にいながら行う営業活動のことだ。楽トスに任せることで、不動産会社は対面での商談に専念できるようになる。

AIをつかって「追客」を行う

 楽トスでは初期対応だけでなく、売買検討者に対して定期的に追客も行う。過去にコンタクトがあった購入検討者には普段から物件情報のメールを送信し、売却検討者に対しては相場情報をメールで送り続ける。その後、タイミングを計って電話をかけ、購入・販売の検討状況をヒアリングする。

「メールは物件情報や相場情報を自動で送るシステムを構築しています。電話に関しては、頻繁にかけてしまうと客は嫌がってしまいます。そのためタイミングを見極めることが重要です。メールには顧客専用のリンクが貼られているため、リンクを踏んだ回数・タイミングなどを元にAIで検討者の売買意欲を計測し、高まったところで我々から電話をかけます」(同)

 売却検討者に送られるリンクは、検討者専用の物件査定サイトとなっている。AIをもとにその場で売却金額を予想できる。

「楽トスの導入によって不動産会社は歩留まり率が向上します。例えば、コンタクトに対してアポイント取得率が10%程度しかなかった会社が、楽トスを利用したことで30%まで向上したという事例もあります。不動産業界はそもそもアポ率が低いので、画期的といえます」(同)

オペレーターのAI化も

 全国に不動産会社(宅地建物取引業者)は約13万社以上あり、その数はコンビニより多い。現状約100社と契約する楽トスも顧客数を増やす余地は大きいが、質を維持したいため、やみくもな拡大はしないと林氏は語る。コールセンターのオペレーターを育てるのに1カ月半から2カ月程度要する。主軸とする不動産売買仲介のほか、コンシェルジュ並みの対応能力を活かして注文住宅のヒアリングや、リゾート・ヴィラなど富裕層向けの架電サービスも展開している。そして現在はシステムやメールでAIを活用しているが、オペレーターのAI化も検討しているという。

 不動産業界は人手に頼る業界であり、他業界のようにDXが進まなかった。依然としてFAXで物件情報をやり取りする企業も多い。一方で、自社単体でDXを行うのはコスト的に難しく、アウトソースする必要がある。楽トスが不動産業界のDXで一翼を担うかもしれない。

(取材・文=山口伸/ライター)