路線価の上昇は喜べない?高齢者のいる世帯に深刻な影響…相続税アップで住宅を手放さざるを得ないの画像1
「Unsplash」より

●この記事のポイント
・2025年分の路線価、全国の標準宅地の平均は前年比2.7%プラス、東京都内は同8.1%プラス
・インバウンドだけではなくて国内の消費、旅行含めた人の移動が活発になっている証左
・路線価が毎年上がり続けることで、相続によって物件を売却するという動きも増えてくる

 国税庁は7月1日、2025年分(1月1日時点)の路線価を発表した。路線価は相続税・贈与税の算定基準となる。全国約32万地点の標準宅地の平均は、現在の算出方法となった2010年以降としては最大の前年比2.7%プラスとなり、東京都内は平均で前年比8.1%プラス、関西2府4県は同2.7%プラスという高い伸びとなった。地方でも長野県白馬村が同32.4%プラス、北海道富良野市が同30.2%プラス、岐阜県高山市が同28.3%プラスなど高い伸びを示す地域が出ている。路線価の上昇は一般の生活者、特にこれから相続を迎える人に深刻な事態をもたらす懸念があると専門家は指摘する。どのような問題が潜んでいるのか。また、路線価の上昇の背景には何かあるのか。専門家への取材を交えて追ってみたい。

●目次

賃貸住宅需要や不動産の売買需要が活発になってきた結果

 全国でもっとも上昇率が高かったのは前出の長野県白馬村。路線価が全国でもっとも高かったのは東京都中央区銀座5の「鳩居堂」前(1平方メートルあたり4808万円)。東京都内で上昇率の最高は浅草の雷門通り(前年比29%プラス)。全国的に大きな上昇幅となっている要因は何か。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。

「全般的にコロナによる影響が払拭されて、インバウンドだけではなくて国内の消費、旅行含めた人の移動が活発になっている一つの証左ではないかと捉えております。例えばオフィスもリアル勤務に戻るという傾向が顕著になっており、低金利が続いておりますのでマンションに対する需要も活発です。これに加えてインバウンドを含めた旅行需要もコロナ前の水準に戻ったことで、全国的に地価が上昇傾向を強めています。当然ながら土地の価格は観光客の動向だけではなく、人の動きの影響を受けますので、賃貸住宅需要や不動産の売買需要がかなり活発になってきた結果だと考えられます」

 地方で一部の地域が大幅な上昇をしている理由は何か。

「白馬や富良野といった冬のスポーツ、スキーリゾート地の大きな地価の上昇というのは、多くのインバウンドが何らかの目的を持って日本の地方都市を目指すという動きの結果だと考えられます。岐阜県の高山ですと古民家に代表される街並み、そういった場所を訪れる外国からの旅行者が、特に日本を何度も訪問するリピーターの間で非常に増えています。そうしたリピーターは東京、京都、大阪の観光を卒業されて、日本は非常に交通体系が整っておりますので、地方にも気軽にアクセスしており、その結果、地方都市でも宿泊や商業への需要増大が期待できるので地価が上がっています。

 また、台湾TSMCが大規模工場を設置した熊本県の菊陽町なども路線価が上がっております。昔風にいうと企業城下町、工場ができると住民が増えて商業が活発になりますが、外資系企業の新たな進出によって地価が上昇するという動きもみられます」

二次相続で多額の相続税

 路線価の上昇は、人々に大きな影響を与え始めているという。

「路線価は相続財産を評価する際の基礎となる数字ですので、それが全国的に上昇しているというのは、これから相続を迎える高齢者のいる世帯にとっては深刻な問題です。年間で亡くなる方の数は160万人くらいですが、その構造が変わりつつありまして、配偶者を亡くされた高齢のおひとり様が増加しています。ご夫婦のうちどちらかが亡くなった際の相続は一次相続といわれ、相続税上、配偶者特別控除があるので、多くの場合は税金を負担せずに済みますが、二次相続になると、こういった控除はなくなります。例えば大都市圏の比較的中心部に住まわれている方になりますと、かなりの割合で相続税が課税されることになりますが、路線価が上がっていくと、ご遺族が二次相続で多額の相続税を課せられることになります。

 団塊の世代が後期高齢者となり、おそらく向こう5~10年くらいの間で、実際に相続が発生するケースが増えてくると予想されますので、路線価が毎年上がり続けることで、二次相続によって物件を売却するという動きも増えてくると思われます。当面は、少なくとも大都市圏は不動産価格が大きく落ち込む可能性は低いと考えられますので、ここまで大きく路線価が上昇するというのは、多くの人々、特にこれから相続を迎える方々にとっては、決して朗報とはいえない、むしろ深刻な事態だといえるかもしれません」(牧野氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)