空き家相続が静かな経営リスクに…資産が負債化する構造、相続前対応が必須の画像1
UnsplashGabriele Girelliが撮影した写真

●この記事のポイント
・空き家相続は放置すると修繕費・管理費・税負担が膨らみ、数年で資産が負債化するリスクが高まる。相続人間の調整遅延が問題を複雑化させ、対応の先送りが最も大きな損失要因となる。
・相続前に住む・売る・処分の方針を決めておくことで、税制優遇や費用削減を最大限活用できる。特に「3000万円特別控除」など期限付き制度を使えるかどうかが家計負担を大きく左右する。
・空き家問題は人口減少や地価下落、制度の複雑化が重なった構造的リスクであり、経営者やビジネスパーソンも無関係ではない。早期相談と専門家連携が最も効果的なリスク回避策となる。

 空き家を相続する行為が、いまや家族に長期の負担とコストをもたらす“予想外の経営リスク”へと変貌している。全国の空き家は900万戸を突破し、相続後に放置されることで修繕費・管理費・トラブル対応など、数十万円単位の出費を強いられるケースが増加している。背景には、人口減少や地方の地価下落、複雑化する相続権利者間の調整など、複数要因の構造的な絡み合いがある。

●目次

空き家は900万戸超、3割が相続契機

 日本では空き家増加が長期的課題となり、総務省の住宅・土地統計調査によれば、2023年時点で全国の空き家は約912万戸に達し、住宅総数の13.8%を占め過去最多を更新した。特に相続によって発生した空き家の割合は増加傾向にあり、国土交通省調査では「相続を契機に空き家化」した物件が全体の約30%に上る。

 実際、相続後に不動産が放置された期間が5年を超えると、建物劣化が急速に進み、解体費や修繕費として100万〜300万円規模の負担が発生するデータもある。さらに、水道・電気の基本料、火災保険料、庭木剪定などの維持コストが年間10万〜20万円かかるケースも一般的であり、空き家放置は確実に出費を積み上げる構造となっている。

 これは単なる“家族内の相続問題”ではなく、ビジネスパーソンにとっても無視できないリスクを含む点で重要だ。空き家に関わるコストは、発生タイミングが読めず、支出額も大きいため、家計のキャッシュフロー計画を乱す。さらに相続時には複数の権利者が関わり、意思決定が遅れるほど管理コストが増大し、資産価値の毀損が進む。

 ビジネスにおける「意思決定の先送り」が損失につながるのと同様、空き家対応の遅延は後々の金銭負担と調整コストを増幅させる。経営者や専門職ほど多忙で相続実務が後回しになりがちで、結果として“知らないうちに資産が負債化する”危険性を内包している。

空き家が増加するワケ

【要因①:建物劣化と維持費負担】

 第一の要因は、空き家の維持コストが予想以上に大きいという点にある。築30年を超える住宅は耐震補強や屋根・外壁修繕が必要になるケースが多く、その費用は平均100万〜200万円に達するとされる。庭木の放置も深刻で、1〜2年で隣家へ越境するほど成長し、剪定費用が1回あたり3万〜10万円かかることも珍しくない。

 さらに、固定資産税や保険料といったランニングコストが毎年発生するため、“住んでいないのに出費がかさむ”状況が続く。特に地方では住宅の市場価値が低下しており、50万〜200万円でしか売れない物件も多いため、修繕費をかけても売却益にはつながらない。維持すれば赤字、放置すれば劣化とトラブル──この構造が相続人を悩ませる。

【要因②:相続手続きの複雑化と権利者の分散】

 次に、相続人間の調整負担が極めて大きいことも影響している。法務省の調査によると、相続登記を放置する“所有者不明土地”が全国で九州本島の面積に匹敵する約410万ヘクタールに達している。相続人が全国に散らばり、連絡が途絶えたまま長年放置されるケースも多い。

 相続開始から時間が経つほど権利者が増え、売却や解体の合意形成に必要な手続きが指数関数的に複雑になる。例えば、相続が二世代分進むだけで権利者が10人以上に増えることも珍しくなく、1人でも反対すれば処分ができない。“誰かが住むつもりだった”“とりあえず残す”という曖昧な判断が、将来の管理不能リスクを引き寄せている。

【要因③:税制と制度面の制約】

 さらに、税制や制度の活用タイミングを逃すことで、負担増を招く構造もある。相続開始から3年以内であれば、空き家を売却した際に「3000万円特別控除」が適用され、有利に処分ができる。しかし、期限を超えると適用不可となるため、売却利益がほぼ手元に残らない事例も多い。

 加えて、国が導入した「相続土地国庫帰属制度」は“国に土地を返せる”制度として注目されたが、実際は10項目以上の厳しい要件審査があり、承認率は低い。2023年度は申請数783件に対し、正式承認はわずか76件(承認率約10%)にとどまった。制度が“取り扱い困難な土地の最後の出口”であるにもかかわらず、多くの相続人が活用できない状況が続く。

【相互作用】

 これらの要因は相互に影響しあい、空き家問題を複雑化させている。劣化が進むほど売却が難しくなり、売却が難しくなるほど相続人間の調整負担が増える。また、調整が長期化すると税制優遇の適用期限を逃し、処分コストが跳ね上がる。制度が複雑なほど専門家への依頼が遅れ、結果として“何も決まらないまま数年が経過する”という悪循環に陥る。

 すなわち、空き家問題は住宅の老朽化だけでなく、家族内意思決定の停滞、行政手続きの複雑さ、地域の地価下落という多層的問題が折り重なって発生する構造的リスクといえる。

相続後、すみやかに処分しないと負担が増大する恐れも

 過去の日本では、住宅は“資産”として子に残されることが一般的で、地価上昇が相続の負担を吸収していた。しかし現在は人口減少・都市集中により地方の空き家率が20%を超える自治体も珍しくない。

 国際比較すると、欧州では相続税率が高い国ほど生前贈与や売却が進み、放置物件が少ない傾向がある。例えばドイツでは生前移転の割合が高く、地方の住宅でも市場流動性がある。一方、日本では「親が亡くなってから考える」という文化が根強く、結果として“相続後に放置される空き家”が急増するという特殊構造を持つ。

 相続コンサルタントでファイナンシャルプランナーの田中真一氏は「相続前に方針を決めることが最大のコスト削減になる」と指摘。加えて「空き家は数年放置すれば確実に資産価値が下がる。相続開始後は利害関係者が増え、意思決定コストが跳ね上がる。親が元気なうちに“住む・売る・処分する”の三択を決めておくだけで、将来の支出とトラブルを7割は回避できる」と語る。

 一方、税理士の村井綾乃氏は、税制面の時間制約に注意を促す。「空き家の3000万円控除や取得費加算特例は、期限内に動いてこそ意味がある。相続人同士の調整が遅れ、半年や1年の遅延が大きな税負担に直結するケースを多く見る」と述べる。また「売却が難しい地域の不動産ほど、相続前に専門家に相談し、出口戦略を練っておく必要がある」と強調する。

 今後、空き家問題は高齢化の加速によりさらに深刻化する。2040年には空き家は1200万戸に達する可能性が指摘されており、相続を契機とした放置物件の増加は避けられない。行政は管理不全空き家への課税強化を進めており、固定資産税が最大6倍に増えるリスクもある。

 ビジネスパーソンにとっては、家族資産の管理はもはや“個人的課題”ではなく、家計・投資・キャリア設計と密接に関わる経営判断の一部と化している。将来的には、空き家を活用する不動産テック、相続DX、売却マッチング市場などの新サービスが急拡大する可能性もある。

 つまり、空き家相続は「親からの贈り物」ではなく、対応を誤れば“静かな負債”に変わる構造的リスクだといえる。最も重要なのは、相続前に家族で方針を決め、税制優遇を適切に使い、専門家と連携しながら早期に処分・活用方法を決めておくことだ。対応の先送りは、コストと労力とトラブルを雪だるま式に増やす。変化する社会環境のなかで、空き家問題への戦略的アプローチは、ビジネスパーソンが避けて通れない“新しいリスクマネジメント”となりつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)