
●この記事のポイント
・不動産協会が購入直後の転売禁止を業界共通ルール化へ。投機的売買がマンション価格高騰を招く構造にメスを入れ、実需層の購入機会確保を狙う。
・東京23区では新築も中古も平均1億円超え。建築費高騰や供給減、海外投資家の流入が背景で、転売規制だけでは大幅な価格下落は見込みにくい。
・規制強化で新築の短期売買は減少し、中古市場の流動性が上昇する可能性。生活者は中古価格の調整や自治体規制の動向を見極めることが重要になる。
東京を中心としたマンション価格の高騰に、ようやく業界団体が大きく動いた。不動産大手が加盟する不動産協会(不動協)は、2025年をめどに「購入から引き渡し前の転売(いわゆる即転売・フリップ取引)」を原則禁止する新たな指針を策定する。違反が判明した場合、契約解除や手付金没収を行う厳しい内容だ。
背景にあるのは、近年顕在化している投機目的の購入増加である。特に都心部では、引き渡し前に価格が数千万円上昇している例もあり、個人投資家が複数の物件を“仕込み”、竣工前に利益確定するケースは珍しくない。
国土交通省関係者はこう話す。
「本来の実需向け住宅が、短期売買の対象になってしまっている。需要が過熱し、一般の生活者が購入しづらい市場構造になりつつある」
今回の動きは、こうした投機的取引を抑制する狙いがある。
●目次
- 1億円時代へ突入する東京のマンション市場
- 行政も強い危機感…千代田区が“公式要請”に踏み切った意味
- 実際に効果はあるのか
- 2025年は“規制の年”になる
- 規制だけでは価格は大きく下がらないが、市場は確実に変わる
1億円時代へ突入する東京のマンション市場
マンション価格高騰の象徴ともいえるのが東京23区だ。不動産経済研究所の調査によれば、新築マンションの平均価格は1億1347万円(2024年)と初めて1億円を突破。中古市場においても、23区全体の平均が1億円を超えた。
特に千代田区、港区、渋谷区など「都心3区」では、新築・中古問わず70〜100㎡台で2億円前後が珍しくなく、事実上“富裕層向け”の市場となった。
需給のひっ迫も背景にある。
・建築資材の高騰
・人件費上昇
・供給数そのものの減少
といった構造要因が重なり、価格は高止まりしている。
加えて、海外投資家の流入が顕著になっている点も専門家が指摘する。不動産ジャーナリストの秋田智樹氏は言う。
「香港やシンガポール、台湾の富裕層から見ると、東京の住宅価格はまだ割安。円安も追い風となり、投資先としての魅力が増している」
こうした外部需要も、価格上昇に拍車をかけている。
行政も強い危機感…千代田区が“公式要請”に踏み切った意味
今回の不動協の指針は、千代田区の働きかけが大きかった。同区は2024年末に、投機目的での転売を規制するよう不動協に正式要請した。行政が直接、業界団体に規制を求めるのは極めて異例だ。
千代田区の関係者はこう語る。
「都心部で一般の子育て世帯が住むのが難しくなっている。投機規制は、地域コミュニティ維持の観点からも必要だ」
行政側の危機感は、すでに生活インフラの課題として広がっている。「学校の生徒数が減る」「地域の高齢化が進む」など、副作用は住宅価格とは別の次元に及びつつある。
実は、今回の不動協の動きに先駆けて、大手デベロッパーの間ではすでに自主規制の導入が進んでいた。
代表例としては、
・同一マンションの購入は「一人1戸まで」
・購入後3〜5年間は転売不可
・第三者への譲渡制限
といったものがある。
しかし、企業ごとにルールがバラバラで、規制が緩い会社へ購入希望者が流れるなど、競争の公平性に影響が出ていた。
そのため今回は、「業界全体の共通ルール」として不動協が指針をまとめ、加盟各社が順守する形を目指す。
不動産会社幹部の一人はこう話す。
「自主ルールだけでは限界があった。業界全体で足並みを揃える必要性が高まっていた」
もっとも、今回の規制がどこまで高騰を抑える効果を持つかは定かではない。アナリストの間でも意見は分かれている。
実際に効果はあるのか
不動産マーケットを研究する安藤恵子氏は、こう指摘する。
「即転売は市場の一部であり、価格高騰の主因ではない。資材高、人件費高、供給減といった構造要因が大きい以上、規制の効果は限定的」
実際、都心の高額帯マンションの多くは富裕層や海外投資家が中心であり、即転売ではなく“保有目的”の取引も多い。
一方で、都市政策に詳しい不動産アナリストの伊藤健吾氏はこう評価する。
「実需層の購入機会を確保する効果はある。心理的な抑止力が働き、短期売買を目的とした資金の流入が減る可能性は高い」
実需層、特に子育て世帯にとっては、購入競争の負担が軽減される効果も期待されている。
では、一般の生活者にとって「買い時」は近づいているのだろうか。複数のアナリストは、短期的な価格下落は見込みづらいと話す。その理由は以下の通りだ。
・供給減(着工数の低迷)
・建築費の高止まり
・都心の土地価格の強い競争力
・海外投資家の継続的需要
特に新築は、建築費がピークを過ぎてもすぐには価格には反映されず、開発には3~5年かかるため、供給回復には時間がかかる。
ただし、中古市場には「価格調整の余地が出てくる」という見方がある。秋田氏はこう言う。
「不動協の指針が強く浸透すると、一部の短期売買が抑制され、中古に流れる物件も増える。買い手有利の局面が出てくる可能性はある」
生活者にとっては、「狙うべきは中古」という見方が徐々に強まっている。
2025年は“規制の年”になる
今回の不動協による指針は、業界全体の転換点として評価されている。今後、以下の流れが予想されている。
① 行政による追加規制の可能性
千代田区だけでなく、中央区や港区も問題意識を共有しており、
自治体レベルの独自規制が広がる可能性がある。
② 金融機関の審査厳格化
投機的取引を抑えるため、住宅ローンの審査が一段厳しくなる可能性もある。
③ デベロッパーによる供給方針の変化
投機を排除した結果、「本当に住む人向けのプラン」が増える可能性がある。
大規模マンションでファミリー向け間取り比率が増える、という変化も考えられる。
④ 中古市場の流動性上昇
転売規制により新築での短期転売が減る一方、中古市場は相対的に活発化する可能性が高い。
規制だけでは価格は大きく下がらないが、市場は確実に変わる
不動協の新ルールは、市場の“体質改善”としては大きな一歩だ。しかし、価格高騰の背景にある構造要因は依然として存在しており、マンション価格が急落するシナリオは考えづらい。
むしろ重要なのは、「住むための住宅」という本来の役割をマンション市場が取り戻せるかどうかという点だ。投機規制は、そのための“第一歩”にすぎない。2025年以降は、行政・業界・金融機関が一体となった、本格的な市場健全化の議論が求められる。
消費者にとっては、価格の大幅下落を期待するよりも、
・中古市場の動向
・地域ごとの供給計画
・自治体の規制方針
といった要因を丁寧に見極めることが重要になる。
住宅価格1億円時代。規制強化によって、この“異常な高騰”がようやく落ち着くのか――
日本の不動産市場は、いま大きな岐路に立っている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)









